中国リスクと相互関税に揺れる世界の工場、ベトナムが担う新たな輸出拠点の役割とは

中国リスクと相互関税に揺れる世界の工場、ベトナムが担う新たな輸出拠点の役割とは

トランプ大統領時代に導入された「相互関税」の政策は、各国の貿易戦略に大きな影響を与え続けています。その影響は我々が拠点とするベトナムも例外ではありません。現在、米国側が示している最大46%という高率の関税に対して、ベトナム政府はどのように交渉を進めていくのかが、今後の輸出戦略を左右する大きなカギとなります。

 

この「相互関税」の背景やこれまでの交渉の経緯については、以前のブログでも詳しく取り上げていますので、ぜひ「トランプ大統領が発表した『相互関税』の影響とベトナム経済への波及もご覧ください。

 

中国と米国の間で揺れる輸出戦略

一方、中国では相互関税の一部が一時的に30%まで引き下げられた影響もあり、米国向けの輸出が再び活発化しています。その影響で、中国発・米国向けコンテナの争奪戦が始まり、国際物流の現場では運賃やスペースの確保に混乱が生じているようです。改めて「世界の工場」と呼ばれる中国の動きは、我々のような国際貿易に携わる企業にとっても、目が離せない状況です。中国からの輸出が増える中で、今後の交渉で米中間の関税がどのように推移していくのか、注意深く見守る必要があります。

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ベトナムにある中国系縫製工場の風景。

 

ベトナムの立ち位置と期待されるFTA交渉

ベトナムもまた、米国との交渉を粘り強く進めており、現在は90日間の関税据え置き措置が決定しています。ただし、問題の46%関税については未だ明確な動きが見えない状況です。ベトナムにとって、米国は最大の輸出相手国です。このまま高関税が続けば、企業活動に大きな影響を及ぼしかねません。今後、FTA(自由貿易協定)締結などを通じて関税問題が前向きに解決されること、そして願わくば中国よりも有利な条件での合意がなされることを期待したいところです。

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縫製ライン。

 

米国からの引き合いが増加中

こうした国際情勢を背景に、米国からベトナムへの関心が急速に高まっています。特に中国リスクの分散先として、ベトナムをサプライチェーンに組み込みたいという動きが活発化しており、実際に弊社にも米国企業からの問い合わせが増えています。今月も、ある米国企業のお客様が実際にベトナムまでご出張され、弊社がアテンドの上、複数の縫製工場をご案内させていただきました。

 

ベトナムが「中国の迂回路」とされる背景

少し前の話になりますが、米国がベトナム製品に対して46%もの高関税を課した理由の一つとして、「ベトナムが中国の迂回路になっている」との見解が示されました。確かに、米中間の貿易摩擦が激化する中で、多くの中国系企業が生産拠点をベトナムへと移管してきました。現在では、中国資本の製造工場がベトナム国内に数多く存在しており、それに伴いベトナム全体のものづくりレベルも飛躍的に向上しています。さらに、中国資本の工場は資材を自国から効率よく調達できる体制を整えているため、コスト競争力にも優れているという特徴があります。

 

今回のご案内でも、コスト面での条件が非常にシビアだったこともあり、すべて中国資本の縫製工場をご紹介いたしました。もともとお客様が中国から製品を調達していた背景もあり、品質面・価格面の両立という観点では、こうした中国系工場が現時点で最適な選択肢となっています。

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リュックバッグに強い中国系工場です。

 

中国系工場の特徴と、EPE企業としての強み

今回ご案内したのは、いずれも中国資本の縫製工場でしたが、それには理由があります。ここでは、その中国系工場の特徴と、EPE企業としての優位性について少し詳しくご紹介したいと思います。

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延反、裁断。

 

ポジティブな面:品質面での安心感

やはり中国は「トライアンドエラーの積み重ね」が強みであり、ベトナムに進出している中国系工場の多くは、品質面でも高いレベルにあります。特に、日本の工場監査基準に準拠した製造経験のある工場や、すでに中国国内でFAMA(ディズニーによる工場監査)やNBCユニバーサル(ユニバーサルスタジオの監査)のような国際的な監査基準をクリアしている工場が、そのまま同基準でベトナム工場を構えているケースも多く見られます。そのため、我々の経験上、中国系の縫製工場で著しく品質が低い工場に出会うことはほとんどありません。この点は、お客様にとっても大きな安心材料になるかと思います。

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ラインの最後に糸切、確認。

 

ネガティブな面:注文ロットの大きさ

一方で、注文ロットが大きくなりがちというデメリットもあります。実際、ベトナムのローカル工場では「1SKUあたり1,000pcs」でも柔軟に対応してくれるところが多いのですが、中国系工場では「1SKUあたり10,000pcs」が最低ラインという印象を受けました。これは、主に資材調達のスタイルに起因しています。中国系工場では、資材はベトナム国内で調達するのではなく、中国本社でまとめ買いをし、コンテナ単位で一括輸送するのが一般的です。そのため、製造ロットも自然と大きくなってしまうのです。ただしこれは裏を返せば、大量調達によるコスト削減が可能であり、結果として価格競争力が高くなるという点で、大きなメリットとも言えます。 

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中国から輸入された資材。

 

多くの中国系工場が「EPE企業」である理由

そして、中国系工場の多くが採用しているのが、「EPE(Export Processing Enterprise/輸出加工企業)」という企業形態です。このEPE制度は、輸出専用の加工貿易を行う企業に対して、さまざまな税制上の優遇措置を提供するもので、ベトナム政府によって定められています。多くの中国系工場がこの枠組みを活用して、競争力を高めています。

 

EPE企業の主な特徴

1. 輸出目的限定

EPEは、完成品のすべてを輸出することが義務付けられた企業形態です。ベトナム国内への販売は原則禁止されており(ただし一部例外あり)、純粋に加工貿易に特化したモデルとなっています。

 

2. 関税やVATの免除

以下のような税制上のメリットがあります:

  • 輸入原材料や部品にかかる関税の免除
  • 輸出製品にかかるVAT(付加価値税)の免除
  • 輸出に伴う税務・通関手続きの簡素化

 

3. 法人所得税(CIT)の優遇

条件を満たせば、法人所得税の免税・減税措置を受けられる場合もあり、地域や業種によって異なる特典が用意されています。

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腕章のあるスタッフは最終確認担当者。

 

これらの制度を上手く活用している中国系工場は、品質・価格の両面で非常に高い競争力を持っている印象です。EPEの仕組みそのものが、中国系企業のベトナム進出における成功の要因のひとつになっているようです。このように、相互関税やチャイナリスクを見据えて、ベトナムにおける中国系工場の可能性を再評価する動きは今後ますます広がっていくと思われます。 

 

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