トランプ大統領が発表した『相互関税』の影響とベトナム経済への波及

トランプ大統領が発表した『相互関税』の影響とベトナム経済への波及

弊社エコプラント有限会社は、ベトナム・ホーチミン市に本社を構える日系の貿易商社です。ベトナムで生産された商品を日本やアメリカへ輸出しています。今回はトランプ大統領が発表した相互関税に関する情報を、ベトナム現地に拠点を持つ貿易商社として様々な角度から整理してお伝えします。

 

ベトナムの大切な輸出先であるアメリカ

ベトナムにとってアメリカは最も重要な輸出先のひとつであり、ベトナムの輸出金額の約28〜30%がアメリカ向けとなっています。これは、数ある貿易相手国の中でもアメリカが最大の輸出相手国であることを意味しており、ベトナム経済にとって極めて大きな存在です。輸出品目としては、電子機器(スマートフォン・パーツ含む)や繊維・衣料品、履物、木製家具、水産物、機械部品などが中心で、アメリカ市場のニーズに応じた多岐にわたる製品が出荷されています。とりわけ、縫製品や家具などの軽工業製品は価格競争力も高く、ベトナムの主要産業としても発展しています。このように、アメリカ市場はベトナムにとって欠かせない輸出先であり、トランプ大統領による「相互関税」政策の影響が大きく懸念される背景には、こうした経済的な依存関係があります。

 

トランプ大統領が発表した「相互関税」とは
2025年4月2日、ドナルド・トランプ米大統領は「相互関税」と称する新たな関税政策を発表しました。この政策は、すべての輸入品に対して一律10%の関税を課すとともに、米国との貿易赤字が大きい国々に対しては追加の関税を適用するものです。アメリカが長年にわたって不公平な貿易関係に置かれてきたという認識に基づいています。主な理由は以下の通りです:

 

不公平な関税制度の是正

多くの国々が、アメリカからの輸入品に対して高い関税を課している一方で、アメリカはその国からの輸入に対して低い関税、またはゼロ関税で対応しているケースが多くあります。トランプ氏はこれを「一方的な損失」と見なし、相手国がアメリカ製品に課している関税率と同じだけの関税をアメリカも課すという、いわば「仕返し型」の政策を提案しました。

 

貿易赤字の是正

特に中国やベトナム、日本、ドイツなどとの間で発生している巨額の貿易赤字も、トランプ政権が問題視していたポイントです。アメリカの製造業が空洞化し、国内の雇用が失われた原因の一つとして、自由貿易の偏りがあると主張し、それを是正するための手段として相互関税を持ち出しました。


相互関税によるベトナム製の税率
具体的には、ベトナムからの輸入品には驚くべきことに10%+36%で合計46%の関税が課されることとなりました。これは、中国の合計34%、日本の合計24%と比べても、圧倒的に高い水準です。米国とベトナムは近年、経済・安保面で友好関係を深めてきたことから、これほど高率の関税が適用されるとは、多くの専門家や関係者の間でも予期していなかったとされています。

なぜベトナム製に高率な関税が課されたのか
ベトナム政府にとっても、この発表は大きな衝撃であり、主要輸出国としての立場が一気に揺らぐリスクを抱える事態となっています。ベトナムからの輸入品に46%もの高率な関税が課された背景には、中国企業による関税回避の構造的な動きが大きく関係しています。

第1次トランプ政権時の2018年7月~2019年9月、計4回にわたり当時3,600億ドル相当の中国原産品の米国輸入に対して、1974年通商法301条に基づく追加関税を決定しました。この決定後、多くの中国企業が関税を回避するために、ベトナム、カンボジア、スリランカなどの東南アジア諸国へ生産拠点を移す動きが加速しました。実際には中国資本の工場がこれらの国に設立され、製品が「ベトナム製」などと表示された上でアメリカに輸出されており、結果として中国本国からの輸出とは当然みなされず追加関税を回避していたのです。


この動きに対し、トランプ大統領は「偽装輸出」だとして強い言葉で厳しく反発し、東南アジア経由の中国資本による輸出にも強い制裁を課す必要があると判断。結果として、ベトナムには46%、カンボジアには49%、スリランカには44%という極めて高い関税率が適用されることになりました。これは、中国の34%、日本の24%といった他国と比べても際立って高く、米国が東南アジア経由の抜け道を本格的に封じにかかった姿勢を示しています。

ベトナム製は中国よりも税率は高いのか
アメリカの相互関税政策により、ベトナムには46%という高い関税が適用されることが決まりました。この数値だけを見ると、他の国々に比べて高いように感じます。しかし相互関税で発表された税率だけで判断せず、過去にアメリカが中国へ課してきた報復関税も合わせて考える必要があります。例えば、中国製品に対しては以下のような重複した関税措置がすでに適用されています:

・2019年9月1日発効の対中関税第4弾(リスト4A)では、15%の関税が一部消費財や日用品に適用されました。この関税はのちに一部が7.5%に引き下げられたものの、依然として有効な品目があります。
 
・2025年3月4日には、アメリカが中国に対して20%の追加報復関税を発動しました。

・そして、2025年4月2日に発表された「相互関税制度」では、一律10%の関税に加え、中国に対してはさらに24%の追加関税が課されることとなり、合計34%の関税が適用されることとなりました。

このように、中国製品に対しては、過去に発動された15%(一部の商品では7.5%)、20%の追加報復関税と、今回の34%の相互関税が積み重なることになります。もし、ある中国製品に対してこれらの関税がすべて適用される場合、通常の輸入関税に加えて最大で69%もの高い関税負担がかかることになります。

一方で、ベトナムには現時点で46%という関税が適用されるのみであり、これ自体は非常に高い税率ですが、中国製品にかかる関税負担の重さと比較すると、実際には中国製品の方がはるかに高い税率を背負っているケースが多いことが分かります。

ベトナムがこれまでアメリカから見て不利な貿易関係を有していた背景に、中国製品が東南アジアを経由してアメリカに輸出されることによって、追加報復関税20%を回避していた現実があり、これに対するアメリカ側の反応が、ベトナムへの高い関税を招いたと考えられます。このような背景を理解することで、ベトナムの46%の関税が一見高く見えても、その背後にある複雑な国際貿易の状況をより正確に捉えることができます。

 

相互関税が与えるベトナム経済への影響
どのような背景があれ、今回の関税措置はベトナム経済に深刻な影響を及ぼすことは間違いありません。ベトナムのGDPの約2%に相当する375億ドル分の輸出が影響を受ける可能性があり、特に電子機器、機械類、衣料品、履物などの主要輸出品が打撃を受けると見られています。第一四半期のGDP成長率も7.55%から6.93%へと減速しており、今後の関税の影響も懸念されています。アメリカとの貿易関係が冷え込めば、ベトナムの外資誘致にも影響を与える可能性が高く、経済全体の成長力を損なうリスクも否定できません。こうした状況下で、ベトナム政府は関税撤回や米製品の輸入拡大といった対応策を打ち出し、影響緩和に努めています。

トップ自ら迅速な対応を行うベトナム
このような中、2025年4月2日、ドナルド・トランプ米大統領が「相互関税」政策を発表した直後、ベトナム共産党のトー・ラム書記長は迅速に対応し、同日午後8時にトランプ大統領との電話会談を行いました。この会談は、関税発表からわずか数時間後に実現し、ベトナム政府の即応性と米国との関係を重視する姿勢を明確に示すものでした。これは日本政府の米国への接触よりも早い対応です。

電話会談の中で、トー・ラム書記長はベトナムが米国からの輸入品に対する関税をゼロに引き下げる用意があることを伝え、米国側にも同様の措置を求めました。さらに、ベトナムは米国製品の輸入拡大や、米国企業のベトナム投資促進にも積極的であることを強調しました。この提案に対し、トランプ大統領は「非常に生産的な会話だった」と評価し、近い将来に直接会談を行う意向を示しました。

予定されている追加の対応策
① 米国への高官代表団の派遣  
2025年4月2日、ベトナム政府はホー・ドゥック・フォク副首相を団長とする代表団を2025年4月6日に米国に派遣する計画を発表しました。この代表団には、ベトナム航空やベトジェット・アビエーションの幹部も含まれ、ボーイング社や米国の銀行との会談が予定されています。フォク副首相はワシントンD.C.も訪問し、米国政府関係者との交渉を行う予定です。

② 米国への関税撤廃の提案
ベトナム政府は、米国からの輸入品に対する関税を撤廃する用意があることを表明しました。この提案は、トランプ大統領との電話会談で伝えられ、米国側も歓迎の意を示しています。

③ 米国への相互関税適用延期の要請
フォク副首相は、米国がベトナム製品に対して予定している46%の関税適用を1〜3か月延期するよう要請しました。この期間中に、公平で互恵的な解決策を見出すための交渉を行う意向です。

④ 輸入多様化と米国製品の購入促進
ベトナム政府は、米国製品の輸入を増やすことで貿易不均衡を是正し、米国との経済関係を強化する方針を示しています。具体的には、米国製航空機や液化天然ガスの購入契約を進めています。

⑤ 関税問題に関する特別部門の設置
ベトナム商工省は、世界的な貿易緊張の高まりに対応するため、特別部門を設置し、各国の市場動向や政策変更を監視しています。この部門は、輸出入市場の多様化や製品カテゴリーの拡充、科学技術の活用による製品価値の向上などの戦略を策定しています。

この迅速な外交対応は、ベトナムが米国との経済関係を重視し、貿易摩擦の早期解決を目指していることを示しています。トランプ大統領も、ベトナムとの関係改善に前向きな姿勢を示しており、今後の交渉において柔軟性を持つ可能性を示唆しています。このような背景から、両国間の交渉にはさらなる進展の余地があり、特に関税引き下げや貿易不均衡の是正に向けた具体的な措置が期待されています。ベトナム側の迅速かつ積極的なアプローチは、今後の交渉において有利に働くことを期待しています。

今後の展開
今後の展開として、ベトナムと米国の間で関税に関する交渉が進められることが予想されます。ベトナム政府は、米国との貿易関係を維持・強化するために、さらなる譲歩や政策変更を検討する可能性があります。また、他の東南アジア諸国も同様の措置を取ることで、米国との貿易摩擦を回避しようとする動きが見られます。しかし、これらの関税措置が世界的な貿易戦争を引き起こす可能性も指摘されており、各国の対応が注目されています。

 

本日は相互関税についてまとめさせていただきました。弊社はベトナムでのモノづくりや貿易を得意とする日系の貿易商社で、縫製品、金属加工、家具など様々な商材を主に日本向けに輸出しています。さらに、オリジナルグッズや販促品、ノベルティの製作も得意としており、幅広いニーズに対応しています。ベトナムでの生産にご興味がある方は、どうぞお気軽にお問合せください。

 

2025年4月9日追記 中国製品にさらに追加関税50%を発表

2025年4月8日、トランプ前大統領は中国からの輸入品に対する追加関税を50%引き上げ、合計で104%の関税率とする大統領令を改正しました。​この新しい関税率は、同日深夜(米国東部時間4月9日午前0時1分)から適用されています。この措置は、中国が米国製品に対して34%の報復関税を課したことへの対抗措置として実施されました。​トランプ政権は、これにより国内製造業の保護と経済的利益の確保を目指しています。​一方、中国政府はこの動きを「脅迫」と非難し、最後まで対抗する姿勢を示しています。さらに、低価格の中国製品(800ドル以下の貨物)に対する関税も30%から90%に引き上げられました。​この新しい関税率は、5月2日と6月1日から段階的に適用される予定です。​この措置は、TemuやSheinといった小売業者が利用していた免税輸入の抜け穴を塞ぐことを目的としています。

 

2025年4月10日追記 中国製品の関税が125%へ

2025年4月9日、アメリカのドナルド・トランプ大統領は、ほとんどの国に対する新たな「相互」関税を90日間一時停止すると発表しました。ただし、中国に対しては関税を125%に引き上げる決定を下しました。この措置は、75以上の国々からの要請を受けてのもので、他国に対しては10%の関税が適用されますが、中国に対しては大幅な引き上げとなりました。中国も即座に報復措置を講じ、米国からの全輸入品に対して84%の関税を課すと発表しました。さらに12の米国企業を輸出管理リストに追加し、これらの企業の製品の販売を制限しました。さらに、中国は米国の映画の上映禁止など、追加の報復措置を検討していると報じられています。これらの措置は、米中間の貿易摩擦を一層激化させ、世界経済に深刻な影響を及ぼす可能性があると懸念されています。

 

一方で、ベトナムのホ・ドゥク・フォック副首相は4月9日に米国のスコット・ベッセント財務長官とワシントンD.C.で会談し、ベトナム製品への46%の関税引き上げの再考を求めました。 ​ベトナムは既に米国からの輸入品に対する関税を引き下げるなど、貿易不均衡の是正に努めており、今回の会談もその一環とされています。​さらに、ベトナム政府は新たな自由貿易協定(FTA)の交渉と締結を積極的に進める方針を示しています。

 

 関連記事はこちら

大ロットから小ロットまでベトナム縫製工場のご紹介、日本向けの品質管理や生産プロセスをご紹介

ベトナム製ぬいぐるみの魅力と競争力 価格・品質・生産のポイント 

ベトナムの大規模縫製工場を紹介|ノベルティからレザーバッグまで対応

オリジナルTシャツの生産現場をチェック!ホーチミンの縫製工場レポート

logo

エコプラント有限会社 

ベトナムでの調達支援や輸出入業務、営業代行など、お気軽にご相談ください。