バイク保有台数が7,000万台以上とも言われるバイク大国ベトナム。朝夕の通勤時間帯ともなれば、道路は無数のバイクで埋め尽くされ、まさに波のような交通が繰り広げられます。そんなベトナムでは、当然ながらバイクに関わるビジネスも盛んです。
現在は他社へ事業譲渡しておりますが、弊社ではかつて、海外で生産されたバイクの補修用部品を輸入し、ベトナム国内で販売するビジネスを手がけておりました。主力商品は、チェーンやスプロケット、ベアリング、ブレーキパッドなどのいわゆる「消耗部品」。日々使われるバイクだからこそ、定期的に交換が必要とされるこれらの部品には、安定した需要が見込まれていました。
当時は、中国やタイの提携工場にて弊社ブランドの部品をOEM生産してもらい、それをホーチミンに輸入。在庫は自社で管理し、ホーチミン市内のバイク修理業者や地方の問屋に向けて販売していました。品質トラブルや納期の遅れといった、輸入業特有の課題に直面することもありましたが、私たちはベトナム中部から南部にかけて、すべての主要都市を自らの足で訪ね歩き、各省ごとに販売代理店と契約を進めていきました。こうした地道な取り組みが実を結び、ビジネスは次第に安定し、数年後には弊社ブランドも市場で一定の認知を得るまでに成長しました。
ところが、2020年――あの新型コロナウイルス感染症のパンデミックが発生します。そして翌2021年、ベトナムでは厳格なロックダウンが実施され、特にホーチミン市では約3か月間もの間、街全体がほぼ停止状態に陥りました。当然、人々はバイクに乗る機会を失い、それに伴ってバイクの補修部品の需要も一気に冷え込みました。
加えて、ベトナム国内販売にはもう一つ大きなハードルがあります。それが「代金回収の難しさ」です。ベトナムでは、商品納品後に代金を回収する「後払い」の商習慣が一般的で、しかも可能な限り支払いを先延ばしにしようとする傾向があります。弊社でも、お客様であるバイク修理屋さんに新たな商品を納品したタイミングで、ようやく前回分の代金を回収する――そんな掛け売りスタイルが当たり前でした。
しかし、ロックダウン明けに営業マンが久々に修理屋さんを訪問してみると、目にしたのは想像を超える現実でした。多くの修理屋が廃業、あるいは夜逃げをしていたのです。その結果、未回収の売掛金は膨らみ続け、ビジネス継続が困難となり、やむなくバイク部品部門は縮小・撤退を決断するに至りました。
ベトナムは近年、グローバルな生産拠点や消費市場として注目を集めていますが、国内市場の実態はまだまだ発展途上です。たとえば、ベトナムの国内総生産(GDP)は大阪府と同程度で、日本全体のわずか16分の1ほど。年商5億円を超えると「大企業」と言われるほどで、個人経営を含めた小規模ビジネスが市場の大半を占めています。このような市場構造も、代金回収の難しさと無縁ではありません。
これからベトナム国内での販売をお考えの企業様には、ぜひこのような現地事情を踏まえた慎重な計画をおすすめいたします。もちろん、弊社では現地の商習慣や取引上のリスクを理解した上で、販売支援や代行業務のご相談も承っております。国内販売に不安がある方は、どうぞお気軽にご相談ください。
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